水がある美しい景色 下関みず紀行
 土地と文化のこと。
いささか堅苦しい言いまわしになってしまいました。
人類の文明起源でさえも、水と無縁には成立しない。
水と命からはじまる無限の時間のことです。
 自然の美しいまちや村。
人間の英智をあつめる都会、その熱情・パッションもまた
水の自在さなしには、あり得ないように思えます。
 地域を思えば宙に翔ぶ。そんな雄大な旅への出発です。

一滴の雨水が清浄な水の流れとなり天に昇り。雲となる。
ときに雨や霧に。
雹、霰、熱い蒸気や冷たい氷雪にも、
その水の変容ぶりには故事、いわれがたくさんある。
この宇宙に、まさに水のかたち、変化自在。
そんな一面を下関、身近かな環境のなかに取り上げてみました。
水と旅するあなたの宇宙へ旅立ちましょう。
「下関みず紀行」へおでかけください。
あぁ!関露かな
 「あぁ!関露水」は下関市の上水道給水開始95周年を記念して平成13年6月、
下関市上下水道局が制作いたしました。異常気象のニュースが当たり前のように報
道されています、下関市でも災害に備えて普段から安全な水を確保し、管理してお
く必要から生まれた水です。
しかし単に災害にそなえるだけではなく、おいしい水を望む人、そのリクエストに
おこたえした、新しい時代の新しいニーズに応えるおいしい水の誕生でした。
 「あぁ!関露水」は下関市らしさをボトル詰めした「歴史の水」、そのブランドと
も言えます。
 そのネーミングの由来、「関露」は「甘露」に通じています。
甘露とは、広辞苑によると=中国古来の伝説で、王者が仁政を行えば、天がその祥
瑞(しょうずい)として降らすという甘味の液=と語義を説いています。
 また、以下は幻冬舎刊行「水のことのは」を引用したものです。
  中国古来の伝説によると、恵み深い政治をする天子が現れるとき、その瑞兆(ずいち
ょう)として甘露が降ると言われた。甘い不老不死の霊液。甘露の雨は草木をうるおす
恵みの雨。甘露の法雨は仏や菩薩の尊い教え。また神々の飲み物をさすこともある。
 下関市上水道誕生当時の施設、高尾浄水場の緩速ろ過池で、自然の力、働きをかりてゆっくり時間をかけて、今もおいしい水がつくられています。
その水を高温殺菌し、”おいしさ”をそのままにボトル詰めされて、「あぁ!関露水」
になるのです。そう、「関」は緩速ろ過池の「緩」でもあるのです。
天から降る恵みの雨が、のどごしの甘露となる。
甘露の雫を、明日は誰がのむのでしょう。

 ●資料:「あぁ!関露水」 データ
 水のおいしさの決め手は、水に溶け込んだミネラに大きく作用されます。ミネラ
ルを適度に含んだ岩石や土中を通ってきた湧き水は、水の中にミネラルが自然に溶
け込み、とてもまろやかでおいしく、その一方、水の中の一切の不純物を取り除い
た「超純水」がおいしく感じられないのは、このためだと言われます。
 ミネラルの内、主要なものとしてカルシウムやマグネシウムが挙げられますが、
これらの物質が水の中にどれだけ溶け込んでいるかを測定し、あらわしたものを硬
度と言います。硬度が約120mg/㍑以下の水を「軟水」と呼びます。日本国内の生
活用水に使用されている水の約80%は約80mg/㍑の軟水です。
 硬度が軟水であれば温和で円満な、いわゆる「まろやかな味」がします。中でも
硬度が50mg/㍑前後の水が特にうまいと感じ、逆に、硬度が高い硬水は、水が硬く
てしつこい味がいたします。
 では、「あぁ!関露水」はどうでしょう?
関露水は、自然豊かな内日の大地が育んだ水を、自然の浄化作用だけで水をきれい
にする「緩速ろ過法」で浄化し、そのままボトル詰めしています。
内日大地のミネラルが適度に含まれた「あぁ!関露水」は、硬度が46.0mg/㍑。特
にうまいと感じる軟水で、下関市が誇れるボトル飲料といえます。

          参考、引用資料 下関市上下水道局「あぁ!関露水」チラシ
満珠島・干珠島
 満珠島・干珠島は、一の宮住吉神社の飛び地で宮内庁が管轄する島。
関門海峡の日の出どきは格別に美しいことはよく知られています。
 さて、潮の流れを自在にあやつるというお話です。
「古事記」「日本書紀」に登場する兄弟、海幸彦と山幸彦の話。
 弟の山幸彦は、兄から借りた釣り針をなくし針を探しにゆきます。途方にくれて
いるとき、出会った塩椎神(シオツチノカミ)、その言葉にしたがい海神、綿津見の
神(ワタツミノカミ)の宮殿へ行きます。
そこで海神の娘、豊玉毘売(トヨタマヒメ)と結婚します。
そして海神のたすけを得て兄の釣り針を無事みつけることができました。
宮殿を辞するとき、潮満瓊(シオミツタマ)または塩盈珠とも表記されます。潮渇
瓊(シオフルタマ)塩乾珠とも表記されます。
このふたつの珠を土産に持ち帰りました。しかしわがままな兄は、無理難題を言っ
て許してくれません。山幸彦はしまいには、このふたつの珠の不思議な力を使って
潮の流れを自在にあやつり、わがままな兄をこらしめたのだそうです。
 満珠島、干珠島にまつわる諸説、神話の真贋、解釈を求めたり、論争をためする
ものではありません。そうした論争は諸賢にお願いすることにいたしましょう。
 一滴の雨水が川となってやがて海になります。海では大きなエネルギーを持つ潮
流の源となります。水の物語を秘める満珠、干珠島。
 関門海峡は時代の劇場、想像の世界へいざなう、そのゲートです。
赤間神宮と曲水の宴
 赤間神宮には雅びな神事がたくさんある。
毎年三月上旬に開催される「曲水の宴」もそのひとつ。曲水、きょくすい、ごくす
いとも読みます。曲水は文字どおり曲がりくねった水のながれを意味しています。
 いわれは、古代三月三日に宮中で催しされた曲水の豊の明(とよのみょう)「曲水
の宴」にはじまります。
宴では、水の流れに沿って大宮人たちが座ります。そして水上からながれてくる杯
が、自分の前を通り過ぎぬうちに詩歌を詠むのです。
 先帝祭の陰にかくれて、大々的に人の口上にのぼったりすることは稀なのですが。
安徳幼帝と平家一門の霊をなぐさめる雅な神事なのです。
 では、赤間神宮から宴の模様を案内いたしましょう。
男性は狩衣(かりぎぬ)を、女性は千早(ちはや)姿になって本殿の水庭にならび
ます。水庭にはお神酒がはいった杯がうかべられます。流れついた杯を参加者が飲
み干し、短歌、俳句など詩歌を詠うという趣向です。赤い本殿と時代衣装を映した
曲水のゆらぎ、そのものが詩情です。
 「曲水の宴」のあとは、一同、神宮前の関門海峡に行きます。宴は手づくりの紙ひ
なを流す「ひな流し神事」へとつづきます。
 ひな流しは形代(かたしろ)と呼ばれる人形を身代わりに、川、潮の流れにのせ
て穢れやわざわいを流す風習です。ひな送りとも呼ばれます。
 そして、ちょうどこの頃は桜の季節でもございます。
桜の花に降る雨は「花の雨」「桜雨」といいます。
桜の散る様子を美しく表現することばです。お釈迦さま誕生の折には、花の雨が降っ
たと言われます。桜を散らしてしまう雨は「桜流し」。
 関門海峡の春を彩る水模様。お好きですか。
霧に浮かぶ架け橋
 関門海峡の霧は、春により多く発生する思われています。が。
ふたしかな記憶をさかのぼったり、また過去の記録をちょっと調べてみました。
するとやはり、春、夏、冬と季節にかかわらず、よくよく現れています。
霧と関門海峡。
海峡をまたぐ橋は「明日に架ける橋」でなくてはいけないと思うのです。
あなたの困難には、わたしが身を呈してあなたを支えよう。
明日に架ける橋には霧が似合う。そう思いませんか。
 早朝に関門橋をほのかに霞ませるのは、朝靄(あさもや)。
霞(かすみ)は春の霧。それは立ったり、たなびいたり。
海峡の冬、飛花(ひか)となれば雪景色。
銀花、天花も同じく雪景色を言う。
霧と海峡と大橋の三点がそろう贅沢。
霧に浮かぶ大橋をまえに、たたずむのみ。
下関みず紀行コラム 浅井仁志
参考文献/ ネイチャー・プロ編集室 水のことのは 幻冬舎刊
下関市水道百年史               
 
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